黒崎陽人著 東洋ラン花物

 この本は私が黒崎先生と出会うきっかけとなった想い出の本です。
 いわずと知れた「東洋ラン花物」は,これまでの日本の東洋蘭書籍の中でも出色の名著で愛蘭家ならぜひ手にしていただきたい書物です。これを見た当時,私は高校生でした。この豪華本が欲しくても買えず,あるデパートの書籍コーナーにあることを知ってから,毎日のように通いつめては読み漁り,とうとう半年後には殆ど暗記してしまったほど心酔していました。
 その後,私自身2冊にわたり読み返しては痛め,現在3冊目を大切に所蔵しています。 

少し紹介してみます。
 何冊かお持ちの方はご存知かもしれませんが,比べてみると本によりカラー写真の色が違うことに気が付かれると思います。何回かの増刷りで初版本との色あわせができなかったのか,当時の技術ではこの趣味性豊かな内容に同じ表現が難しかったのかもしれません。
 いずれにしても本全体が黒崎陽人という愛蘭家の性格やこだわりをふんだんに盛り込み,このことが文書・構成・装丁すべてを貫いていますので,氏の人柄そのものが出ている本といっても間違いありません。
 題字には彫刻家平櫛田中の書を見せ,蘭画を富岡鉄斎とし,東洋蘭趣味が単に植物栽培に留まらない事,広がりを持つものだと言うことを暗に紹介しています。田中氏は天才と言われた木彫家で気品と力みなぎる書風を見せます。鉄斎は独特の彫刻刀で削り取ったような厳しい線で幽谷の環境に生きる蘭の精神性を表しています。
 蘭の写真に至っては思い入れが特に顕著です。カラー版は蘭の背景色を良く吟味し,全体に写真と言うよりは絵画的なできばえに仕上がっています。単に色彩が美しいだけでなく蘭の持つ品格と神秘性を強く引き出し,画家としての目で作品化されているのは,その頃の絵画作品と比べても理解できるところです。


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 当時大切にされていた光琳の写真など特に顕著で見るものにこのような植物があるのかという感動を抱かせます。昨今の蘭書にある図鑑のような写真とは全く違った,ただの蘭の紹介ではなく,いわば数奇者の集う蘭空間に引き込まれていくようです。
 この写真からでもわかるように氏は蘭を人に見せるとき,上砂を取り替えない主義でした。蘭が落ち着かなく見えるというのが主な理由でしたが,光琳の鉢だけは写真の色バランスから新しいものにしてあります。
 書き出すと終わらなくなるので今回はこれぐらいにします。



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 平成に入り情報をかき集め,落ち着いた培養がはばかられるような昨今ですが,蘭はこころで見るもの。ゆっくりと成長を見ながら,季節を感じ,日々の生命の輝き,時には驚きを楽しむものです。特に花物がお好きだった氏は,1年の殆どを青い葉を見て過ごす為,この思いはなおさら強かったことと思います。話を聞くたびに葉質,葉姿にこだわりをもたれていたことを思い出します。この本のページを繰りながら,亡くなられた氏から教示を受けることができる,あの頃に戻りたい気が強くなります。

 この一年の蘭とのふれあいもあと少しですが,もう少し蘭を理解して楽しめたらと思います。
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